タイトルホルダー【我が心の愛馬】前編

競馬の思い出

2021年10月24日、阪神競馬場。

この日開催されたG1菊花賞。

芝3,000mという長距離で競われるこのレースを、圧巻の逃走劇で勝利した競走馬。

その名は、タイトルホルダー。

私の人生に忘れ得ぬ記憶を刻み込んだサラブレッドです。

タイトルホルダーとの出会い

私が初めてタイトルホルダーを目にしたのは、2021年の皐月賞を友人と予想しているときに観た、同年の弥生賞のレース映像ででした。

当時の私はまだ競馬を始めたばかりで、競馬歴十数年の友人にあれこれ教わりながら皐月賞の出走馬を順番にチェックしていたところ、参考レースとして観た弥生賞を一着でゴールした馬に目が釘付けになりました。

4コーナーを先頭で駆け抜け、直線に入っても足色は衰えることなくむしろ更に回転数を上げてそのままゴール。

2着は後にNHKマイルカップを制覇するシュネルマイスター。

3着は2歳時にホープフルステークスを制したダノンザキッド。

これらを抑えて一着に輝いたその馬こそ、ドゥラメンテ産駒、タイトルホルダーでした。

まだ競馬の良し悪しなどわかっていない当時の私でしたが、この時のタイトルホルダーの姿に一目惚れし、クラシックはこの馬を追いかけていこうと心に決めたのでした。

皐月賞、期待に胸躍らせ…

そして迎えた皐月賞。

タイトルホルダーは8番人気と低評価。

当日の一番人気は2歳王者のダノンザキッド。

2番人気はここまで三戦三勝と無敗で駒を進めてきたエフフォーリア。

この二頭が人気を分け、レース直前までオッズが動き続けていたと記憶しています。

有力馬二頭に比べて圧倒的に人気のないタイトルホルダーでしたが、だからこそ大穴を開けてくれるのではないかと期待も高まります。

ゲートが開き、タイトルホルダーはスタートを決めて弥生賞の時のように逃げの体制。

しかし内から競りかけてきたワールドリバイバルにハナを奪われ、タイトルホルダーは2番手に控えます。

3,4コーナーにかけて、先頭のワールドリバイバルをかわして直線手前で先頭に立つタイトルホルダー。

その真後ろでは2番人気のエフフォーリアが虎視眈々とチャンスをうかがっています。

1番人気のダノンザキッド中段前目にいましたが直線に入った瞬間失速。

対照的にエフフォーリアは直線に入ると何かが弾けたかのように素晴らしい末脚でもってあっという間にタイトルホルダーを抜き去っていきました。

タイトルホルダーも懸命に追いますが、差は詰まらず2着。

2強ムードだったエフフォーリアとダノンザキッドでしたが、ダノンザキッドが直線で後退してしまい圧倒的な力を見せつけたのはエフフォーリアでした。

世間の目はほとんどエフフォーリアに向いていたように感じますが、それと同時に、そんな馬の2着に食らいついたタイトルホルダーはやはり強い、きっとこの世代の中で力を示すことができると私は確信したのでした。

日本ダービー、夢の大舞台では…

惜敗の皐月賞を終え、クラシック2戦目は全てのホースマンの夢、日本ダービー。

タイトルホルダーは皐月賞2着ながら8番人気と低評価。

しかしそんなものは関係ない、タイトルホルダーはきっと結果を残す。

そう信じて見守っていました。

結果は6着。

前走より着順を落とす結果になりました。

クラシック2冠目を狙うエフフォーリアと、それを強襲するシャフリヤールのゴール前の一騎打ちに加わることなく直線では馬群の中へ沈んでいきました。

エフフォーリアとシャフリヤールの死闘を見て興奮していましたが、同時にタイトルホルダーの結果に悔しい気持ちになっていたのも事実でした。

しかし、まだクラシックにはまだ一戦ある。

評判的にもタイトルホルダーはそのレースの方が向いているという話もあった。

次こそはきっと、タイトルホルダーが勝つに違いない。

セントライト記念、苦汁の味

夏が明けて9月20日。

クラシック最終戦、菊花賞への前哨戦として、G2セントライト記念に出走したタイトルホルダー。

適性の前評判もあってか、当日は1番人気。

応援している馬が満を持しての一番人気での出走となり、胸が高鳴りました。

鞍上はダービーまでの田辺裕信騎手から横山武史騎手へ乗り替わり。

この年の横山武史騎手はエフフォーリアの主戦騎手としての活躍もあり、もっとも輝いていた騎手と言えるかもしれません。

何より横山武史騎手は、あの弥生賞の時にもタイトルホルダーの鞍上を務めていました。

距離適性も、騎手も、人気も、勝つための条件は整っているように思えました。

結果、13着。

今回のタイトルホルダーは逃げずに中段で抑えての競馬。

いつもと違うレース運びに驚きながらも、圧勝するイメージしかなかった私は安心して見守っていました。

しかし、直線に入ってもタイトルホルダーは馬群を捌くことができずに失速。

全く見せ場もないままレースを終えてしまいました。

これには流石にショックが隠せませんでした。

ここを快勝して菊花賞へ……そう思っていたのに、まさかの2桁着順。

展開がハマらなかっただけ。

控える競馬がよくなかった。いつも通り逃げていれば……

色々と思うところはありましたが、 兎にも角にももっとも期待の大きかったレースで大敗してしまったショックは私の中では非常に大きかったです。

このまま勝ち星を挙げることなくクラシックを終えてしまうのか……

そんな不安もよぎり始めました。

菊花賞、忘れ得ぬ戦い

セントライト記念から一か月後の10月24日、阪神競馬場。

改修工事中のため阪神の舞台で行われる、芝3,000mのG1、第82回の菊花賞。

クラシックの最後の一冠であるこのレースに、タイトルホルダーは4番人気で挑みました。

1番人気は前哨戦の京都新聞杯を勝利したレッドジェネシス。

2番人気には同じく前哨戦の神戸新聞杯を制したステラヴェローチェ。

そしてタイトルホルダーと同じ前哨戦であるセントライト記念を3着で終えたオーソクレースが3番人気。

いずれも前哨戦で結果を残した面々に続くタイトルホルダーは、前哨戦13着。

それでも4番人気に残ったのは私のようにタイトルホルダーに一抹の期待をかけるファンが多くいたからかもしれません。

相手は強い。しかしタイトルホルダーはきっとやってくれるはず。

そんな根拠のない自信と不安が入り混じる中、菊花賞のゲートが開きました。

「タイトルホルダーがいきました」

実況の声と共に猛然と先頭に躍り出るタイトルホルダー。

セントライト記念での控える戦法から一転、タイトルホルダーらしい逃げのスタイル。

ここで私の脳裏に再び不安がよぎりました。

菊花賞は3,000mの長距離戦。

逃げて勝つことは至難の業なのは、競馬初心者である私でもわかっていました。

だからこそセントライト記念では控える戦い方を試していたのだろうと思っていましたし、もともと逃げ戦法を得意とする馬ではあるものの、まさかここまで勢いに乗せて先頭を奪いにいくとは思わず……

皐月賞でも2番手で競馬をして2着に残すこともできていたように、決して逃げなければ戦えない馬ということはないと思っていた中でのまさかの飛ばし過ぎとも思える逃げ。

後続の馬がスタミナを気にしてかそこまで強気に追ってこない中、タイトルホルダーはぐいぐい押して先頭に立ち、2番手の馬に5馬身ほど差をつけて正面スタンド前を通過していきます。

飛ばし過ぎなのでは? 本当に3,000m持つのか?

私の心配をよそにタイトルホルダーは先頭のまま向こう正面を通過。

後続の馬が3コーナー手前から差を詰めてきて、タイトルホルダーとの差はほぼ無くなっています。

やはり飛ばし過ぎた、このまま捕まってしまう。

後ろで控えていた2番人気のステラヴェローチェ、3番人気のオーソクレースが外を回して迫ってくる。

後続との差が詰まり、4コーナーを通過して直線へ。

なんとか、せめて3着以内に……

そんなことを思っていた当時の私は愚かでした。

先頭のまま直線に入ったタイトルホルダーは、信じられないことに後続との差を逆に引き延ばしていったのです。

一時は詰まっていたはずの差が、4コーナーを回った直後に何故か開いている。

何が起きた? と私は唖然としました。

タイトルホルダーの手応えも、3,000mを逃げてきたとは思えないほど良いものに見える……

そんなタイトルホルダーを捕まえようと、後続の馬達は猛然と追ってきます。

しかし差は詰まらない。

2番手の馬に5馬身ほどの差をつけたまま、タイトルホルダーはただ一頭で正面スタンド前を駆け抜けていきます。

「これは一頭桁が違ったタイトルホルダー」

実況の声が響き、タイトルホルダーは余裕の走りでゴール板を駆け抜けました。

その姿を見た瞬間、私は大粒の涙を流して号泣していました。

恥ずかしながら、私はスポーツやアイドルなど、何かを熱心に応援した経験がこれまでの人生で一度もありませんでした。

どこか他人事というか、一歩引いて見ていることがほとんどで、所謂「ファン」だとか「推し」といったものには縁のない人生だったのです。

そんな私が、たった一頭の馬が悲願の勝利を掴んだその姿を見て歓喜のあまり涙を流すとは……自分でも驚きでした。

この瞬間から、私は生涯においてタイトルホルダーという競走馬のことを忘れないであろうこと。

そして競馬とは本当におもしろく、素晴らしいスポーツであるということを認識しました。

この菊花賞を経て、私はタイトルホルダーを心の底から尊敬し、そしてこれからも応援し続けようと心に決めたのでした。

有馬記念、そして春へ

菊花賞を終えたタイトルホルダーは年末の有馬記念へ挑みます。

相手は三冠馬コントレイルや女王グランアレグリアを倒した同期のエフフォーリア。

凱旋門賞挑戦から帰国したばかりのグランプリホース、クロノジェネシスやディープボンド。

年末の総決算である有馬記念には有力馬が集います。

タイトルホルダーは菊花賞と同じく4番人気で挑み、結果は5着。

勝利したエフフォーリアはこの年の年度代表馬に選ばれるほどの圧倒的な実力でした。

悔しさは勿論ありましたが、この有馬記念には一つ、タイトルホルダーにとって重要な出会いがありました。

それは、タイトルホルダーを菊花賞馬へ導いた横山武史騎手がエフフォーリアに乗らなければならないため、このレースから新しく鞍上を任された、横山和生騎手との出会いです。

横山和生騎手は横山武史騎手の兄で、トーセンスーリヤと共に新潟大賞典や函館記念を勝利するなどの結果を残していましたが、この時点ではまだG1制覇には手が届いていませんでした。

有馬記念で結果を残せなかったことに対しての和生騎手へのバッシングは少なからずあったかと思いますが、年が明けて2022年。タイトルホルダーと横山和生騎手はそんな評判を跳ねのける素晴らしい活躍を我々に見せつけてくれたのです。

明け4歳、古馬になったタイトルホルダーの活躍。

そして父ドゥラメンテから受け継いだ想いや、横山家のことなどまだまだ書き尽くせぬことばかりですが、長くなりましたので続きはまた次の記事で……

【後半へ続く】

コメント

  1. ソノスケ より:

    お疲れ様です!
    タイトルホルダー・・・自分も大好きな馬です。自分は競馬にのめり込むきっかけとなったサートゥルナーリアの様な先行・差し競馬が強い!逃げは最後に差されるからダメ!とそんなイメージをもっていた為、逃げ馬を軽視する考えを当時の競馬超初心者の自分は持っていましたが、この馬の新馬戦を見てからそんな考えを一変させてくれました。今ではタイトルホルダー、パンサラッサを筆頭とした逃げ馬大好き人間になりました(笑)
    天皇賞が本当に楽しみです!

    • magokoro より:

      ソノスケさん
      いつもありがとうございます。
      私も、逃げ馬は玉砕覚悟というイメージがありましたがタイトルホルダーは全くそうではなく、あの圧倒的な逃げ切りは逃げ馬の印象を変えてくれました。
      私もパンサラッサも含めて大好きです(笑)
      天皇賞・春連覇してほしいですね~!

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